佐藤小児科医院 電話042-441-2772 調布市西つつじヶ丘1-57-94
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はじめに

コラム

    胎外胎児

 人間の脳は他の動物に比べてあまりにも大きな発達をとげました。大きな頭がお母さんの産道を通過出来るためには、人間の赤ちゃんは約1年近くも早く生まれなければなりません。他の哺乳動物は生まれてから数時間もたつと自分の足で立ち上がりおっぱいを求めて移動出来ますが、人間の赤ちゃんは未熟な状態で生まれてくるために誰かがお世話をしてあげないと、おっぱいを飲みに行く事さえできないのです。そうしたことから、「生後1年間は胎外胎児である」と言われています。
 お母さんのお腹の中では、呼吸も栄養もすべてお母さんが臍帯を通して賄ってくれています。子宮の中は無菌状態で、いつも一定温度、外の騒音も優しく小さな音になり、振動も羊水のお蔭で和らぎます。赤ちゃんはそうした安全で安心な環境ですくすくと幸せに育つのです。時が満ちて生まれてくると赤ちゃんの体に大激変が起こります。自分の力で空気を吸ったりはいたりと呼吸をし、小さなお口でおっぱいを一生懸命飲まなければ生きていけません。テレビの音、携帯電話の音、ドタ〜ンと閉まるドアの音、救急車のサイレン・・どれも赤ちゃんにとってはびっくりする音ばかりでしょう。顔にあたる強い風に息苦しさを感じたり、夏の厳しい暑さに体が戸惑いを感じたりすることでしょう。私は平和で、いたいけな赤ちゃんのお顔の中に精一杯生きようとして頑張っているもう一つの命のお顔を思わず拝みたくなるのです。

 以前にもお話ししましたが、私は4頭の盲導犬の仔犬をお世話させて頂きました。盲導犬協会のご指導もあり、仔犬達はワクチンの接種が完了する生後3ヶ月から4ヶ月位まではお散歩に出せませんでした。ほとんどを安全な家の中やサークルで限られた庭先で過ごします。やがてワクチンが完了し、怖い病気をブロック出来てからやっと散歩が許されるのです。でも人間の赤ちゃんはどうでしょうか?紙おむつや、便利な育児グッズの開発もあってか、あるいは病気の治療が進歩し重症な感染症でも助かるようになったためか、時には仔犬よりも安易に扱われているのではないかと思う事もしばしばです。もう10年以上の前の光景ですが、生きているのがまだやっとやっとの1〜2ヶ月位の赤ちゃんを連れてスキーに来ている方を見かけました。お父さんが滑っている間は、お母さんがゲレンデの下で赤ちゃんを抱いていました。お父さんが滑り終わると今度はお父さんが赤ちゃんを抱きお母さんがリフトに向かいました。あるいは、デパートの今季最後の大バーゲン会場では、まだ1ヶ月位の赤ちゃんをお父さんが抱き、お母さんが必死に買い物をしていました。衣類の細かなホコリで、私の口の中はざらざらしてとても嫌な感じでした。赤ちゃんもさぞかし不快だろうなと思いました。きっと数日後には咳や鼻水でつらいおもいもするのでは・・と不安もよぎりました。
 今年の9月頃に、小児科の先生が中心のメーリングリストで「小さな赤ちゃんを連れての外出」という話題が盛り上がりました。(赤ちゃんがいても親は、やりたい事をやり、行きたいところに行くべし。)という意見と(せめて赤ちゃんが小さい間は、やりたい事、行きたいところがあっても、出来るだけ赤ちゃんの事を優先してひかえるべし。)という意見に分かれました。それぞれがご自分の経験に照らし合わせていろいろなご意見を出していました。私は布おむつ世代の母親である事、私はどちらかというと子育て苦手(嫌い?)タイプだった母に育てられた事(私は大事に育てたい!)、週3〜4日の仕事をしていた事、次男は体が弱かった事などで、どちらかというと自分のやりたい事はひとまず置いといて、子ども達の健康的な生活を最優先する選択をしました。もちろん百人百様の考え方で答えの出るものではありませんが、小児科の先生でもまだ無防備な赤ちゃんを連れていろいろな所へ行ったというお話に私は驚きましたが、徐々にそれもありかなとも思えてきました。実際、私の場合は赤ちゃんに私の都合で負担をかけると、必ずと言っていいほど病気になって、親子ともども辛い思いをしました。兄弟そろって回復していつもの生活に戻るまで結構日数も掛かりました。その繰り返しのしんどさを思うと、私は子ども達と健康的な生活にどっぷりつかってそれを楽しむという選択をしたのです。自分の楽しみを我慢したというのでもありませんでした。皆さんはこの点についてはどのような選択をされているのでしょうか。
  赤ちゃんの病気は何と言っても感染症が一番多いという事・感染症の多くは人から人にうつるという事(人混みは危険)・人間の赤ちゃんは胎外胎児でかよわい存在である事・を是非頭の隅においてこれからも赤ちゃんとの日々の暮らしを楽しんでいただけますようお願いして、今月のコラムを締めくくりたいと思います。

私の胎外胎児。
長男 宏樹 次男 康裕


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