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いつだって僕の話を聴いてくれない!!
いつものように夕食の後片づけで食器を洗っている時でした。長男(中学生の頃でした。)がやって来て、「お母さん、ちょっと相談があるんだけれど・・」と言いました。私は食器を洗いながら「どんなこと?」と答えたところ、「お母さんはいつだって僕の話を聴いてくれない!!今まで一度だって僕の話を聴いてくれた事がない!!」とこれまでの想いを一気に爆発させたように言いました。一瞬、私は何を言われているのかわからなくて「いつもちゃんと聞いているじゃない。頼まれたことはきちんとやっているつもりだけれど。」と言い返しました。びっくりして息子の顔をみると真剣な眼差しをしていました。私はハッと気がつき、すぐに食器を洗うのをやめて息子の方をしっかりと向き「はいわかりました。30分程で片づけが終わるのでそれから話を聴きましょう。それでどうかしら。」と伝えました。息子はやっと納得した様子で自分の部屋に戻って行きました。その時の相談の内容は覚えていませんが、おいしいお茶を入れて、息子と向き合い“いま”という時間をすべて息子の話を聴く事に集中した事だけは大切な経験として残っています。
それにしても「今まで一度だって僕の話を聴いてくれた事がない!!」と言われた時には親として心から反省をした瞬間でした。家族の間だけではなく、友達と私、患者さんと私・・・色々な人たちとかかわる上で、とても大切なことを気付いた瞬間でした。その後は、子どもが何か話しかけてきた時には、まず手を止めて、子どもの方を向き、返事をすることを心掛けました。毎日の診療の中でも、心掛けているつもりですが、出来ていない事が多くこのコラムを書きながら反省しきりです。
千葉県の大学に進学した息子は千葉のアパートで独り暮らしとなりました。夏休みで帰ってきて、久し振りに食卓を囲んでいた時のことです。食卓の上には携帯電話がチョンと置かれていました。男の子なので普段は電話もほとんどかけてきません。積もる話もたくさんありました。楽しく会話をしていると、息子の携帯電話がガチャガチャとなり息子は私との会話を中断して電話の相手と雑談します。何度もそのような状況があり、私は嫌な気持ちになりました。最近のありふれた光景かもしれませんが、携帯電話は今楽しく話をしている人たちの中に、今大切な話をしている人たちの中に、ずかずかと入り込んできます。とうとう私も言いました。「食事中の携帯電話はやめてもらえませんか?」すると息子は「今はこんなの普通だよ」私は「でもお母さんは久し振りに色々な話をしながら食事をしたいの。もしそれが嫌なら、別々に食事をしましょう。」とまで言いました。息子は気がついたのか、諦めたのか、どちらかはわかりませんがその後は家に帰ってきた時に食事中だけは携帯電話をすることはなくなりました。
みんなが忙しくて、そのために色々便利なものが出来て、意識をしないとゆっくりじっくりと向き合うことが難しい環境になっています。子ども達は“いま”という時間のすべてを自分のために使ってもらえている事を感じた時に心から満足するのではないかと思います。子ども達と向き合う時、誰かと向き合う時には、テレビやらパソコンやら携帯電話はOFFにして、ゆったりした中にも濃縮された時を過ごしていただきたいものです。
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