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小児科医には3つのYがある 私は杏林大学小児科の主催する多摩小児科臨床懇話会の世話人をしています。その関係で小児科学教室の忘年会に時々お邪魔することがあります。ある年の忘年会の席で、前教授の別所文雄先生が、「小児科医には3つのYがある。YUME(夢)がある。YOROKOBI(喜び)がある。YARIRAI(やりがい)がある。」といったお話をして下さいました。別所先生は白血病をはじめとした小児癌がご専門です。先生が若かれし頃(昭和40年代)には白血病は不治の病で寛解という言葉は使えても治癒という言葉は使えませんでした。でも今は治癒して、結婚して、出産してお母さんになった患者さんもいます。患者さんの大学卒業の報告を受けたり、結婚式にご招待されたり、赤ちゃんを連れて先生を訪ねてこられたりした時には、いつもこの3つのYを実感する瞬間ですといったお話でした。年代的には別所先生の一方後ろを歩んできた私にとって、とっても心に残るお話でした。自分では気がつかなかったのですが、30年以上飽きもせずにひたすら小児科だけを続けてこられたのは、時々キラッと光るこの3つのYがあったからかもしれません。 別所先生のお話にすっかり感動していた私の横で、ある同年代の先生が「今は、もう一つのYがあるよ」と言いました。いきなりの発言で何も思いつかなかった私が「それは何ですか?」と聞くと、「YAMETAKUNARU(辞めたくなる)だよ。」と答えました。「確かに・・・・・」思わず私も頷いてしまいました。赤ちゃんをお世話しているママのハデハデの長い爪・おふくろの味ではなく袋の味の食卓・子育てがストレスと言ってばかりいる親・仕事があるからと急患室ばかり受診する親・仕事を休めないからという理由で、ぐったりしている子供を保育園に預けてしまう親・増える一方の児童虐待・夜の10時に子ども連れて居酒屋でお酒を飲んでいる親・検査の予約の日はお稽古があるので来れない、検査はタダだけれどもお稽古にはお金がかかっているからという親・見るからにしんどそうな子どもをよそ目に(私としては一分でも早く家に帰して布団に寝かせてあげたい!!)原因は何か、数日後の行事には出られるかと今必要でないことを聞きたがる親・ネットの情報を一番信頼していて医師の言うことに耳を貸さない親・などなど3つのYよりも、もう一つのYの方が日々の診療では多いくらいです。 でも私は小児科医です。いつでも一番大切に思うのは子ども達のことです。ママやパパの味方よりも子どもの見方になります。時には、子どもの代弁のつもりで嫌味なことを行ってしまうこともあります。が、時折輝く3つのYを仕事の支えに、もう一つのYは祈りに変えてあと少し小児科医を続けていこうと思います。
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